朝起きて…。
って言うか、昨日から寝れずに…。
ここ数日寝れずに…。
今日最後の見送りをしてきました。
見たくない現実、受け入れたいくない事実。
「イヤだ」と言って避けられることなら、そうしたいと思いました。
でもコレは、紛れも無い事実。
キミは短い生涯を終え、ジイちゃんの待つ世界に旅立った…。
僕らもいつか、そこに行くだろう。
そこに辿り着くために、今を生きるだろう。
でも…。
あまりに早い旅立ち。
もしも「生まれ変わり」ってことがあるならば…。
もう一度、僕の妹の子どもとして産まれてきてくれるかい?
もしも僕が今死んだら…。
やっぱりこの家に産まれたいんだ。
ジイちゃんの怒る声が響いて、バアちゃんの味噌汁が出来てて。
姉ちゃんや妹二人が騒ぐ食卓。
そこに仕事を終えた父と母が加わる…。
そんな食事をしてた、この家が大好きなんだ。
キミはどうかな?
「もう一度、ココに」って思ってたのかな?
僕はそう信じたい。
キミは愛されて、望まれて産まれてきたんだよ。
キミを迎え入れる、妹夫婦の顔を僕は忘れない。
キミを囲みながら、食べた夕食を僕は忘れない…。
到着して欲しくないと思って、乗り込んだ車。
無情にも、時間が経てば、辿り着く。
そこに横たわる、キミの棺…。
手が震えたまま、線香に火をつけた。
妹に何か、声をかけてあげたいと思ってた。
でも何も言えなかった。
少しやつれた妹が僕に向かって「ありがとう」って言ってくれた…。
僕は何も言えなかった…。
現場にはキミの名前が。
準備前の部屋を見て…。
立っているのが辛くなった…。
現実を突きつけられた気がした。
「ダメだ、もうダメだ」と思った。
涙が出るってよりは、立っている事が辛かった。
キミのお兄さんは、眠そうな顔をしてた。
幼いながらも、空気の違いを感じ取ってたのか顔つきが変わってた。
僕がだっこをすると、すぐさまに寝てしまった。
前日から寝てなかったらしい。
自分の妹が無くなった事を理解してたのか、してないのかはわからない…。
でも何か感じ取ってたんだろう。
寝かそうとすると、泣き出す…。
オマエもガマンしてたんだな…。
僕らでも受け入れにくいこの状況。
僕らよりはるかに、幼いのに…。
席に座ると、とにかく動き回ってた…。
涙に溢れる僕らを笑わそうとしているように見えた。
お経が始まり、葬儀は始まった。
数珠も満足に握れず、合掌さえ出来ない自分に気がついた。
ご焼香に、立ち上がれない自分に気がついた。
最後に「お別れ」の時が来た…。
一番見たくなかった…。
でも見ないといけない…。
見送ってやらないといけない…。
棺の中のキミは…。
今にも動き出しそうな顔で…。
手を握って、ホオを触りたかったけど…。
それすらも、出来なかった。
それが死の証…。
妹が震えながら「たくさん花を入れて」って言ってる。
でも棺が小さすぎて…。
それでも出来るだけの花を入れて…。
そして棺が閉じられた。
まだ現実感は何も無かった。
そして霊柩車が来てて…。
棺を霊柩車に乗せなきゃいけなくて…。
僕は2年前にも同じ「小さな棺」を運んだ…。
今回もとても小さな棺で、軽くて…。
一人で持てそうなくらい、小さくて軽くて…。
でもとても、とても重くて…。
棺より軽いはずの、キミなのに…。
とても、とても重くて…。
車に乗せるまでの、一歩一歩が長いようで短くて…。
「乗せなけりゃ、生き返るんじゃないか」とか思って…。
でも現実を受けとめなけりゃって、思って…。
キミが焼かれる現場に行って…。
泣いている妹を見て…。
扉が閉まるのを見て…。
「何で、変わってやれないんだ」なんて思って…。
2年前にも聞いた泣き声と、思い。
小さくて軽かった棺…。
でも何よりも重たくて…。
生きるってことの意味と、生命の重さを教えてくれたキミたち…。
焼かれるキミを見送った、帰りのバスでは結構言葉が出せたんだ。
そして、昼ご飯を食べて、ビールを飲んだんだ。
悲しいかな、生きてる限りハラは減る。
こんな時でも、ハラは減る。
ビールも飲んだけど…。
何か苦い味がした…。
ビールだから苦いのは当たり前だけど…。
何か苦い味がした…。
そしてまたバスに乗って、キミを迎えに行った。
桜並木がキレイで…、とてもキレイで…。
桜の咲く頃には、キミを思い出すだろう。
キミの名前の桜を植えてもイイだろう。
その桜が生長するたびに、キミを思い出すから…。
バスの中では、結構笑いも出てた。
でも…。
扉から出来てきたキミは…。
想像以上に小さく、細かった…。
2年前にも見た光景。
愛くるしく、愛おしかった姿が灰になってる光景…。
目を背けたかった…。
見たくなかった…。
でも…、でも…、でも…。
小さな骨を懸命に集めてる妹…。
その姿を、僕は見つめてた。
あまりに小さくて細い骨…。
僕の手のひらより大きくならなかった顔…。
僕の指より大きくならなかった腕、そして足…。
全てを詰め込むように、妹は骨を拾ってた…。
僕にできる事は、ずっと見てるだけだった…。
無限にも感じる時間…。
ずっと、見てるだけだった…。
ゴメンネ、何も言えなくて…。
何も出来ない僕を許してね…。
でも何も言えなかった…。
涙は思ったより出てこなかった…。
泣き叫べるほど、僕には体力も水分も残ってなかったのかも。
でも立ってるだけで、精一杯だった。
僕でもそれくらいなんだから、みんなは…。
でも最後まで、見送ってあげれた。
キミの兄さんは、妹を慰めるために頭をなでてくれたね。
僕がだっこすると、ある場所に行けって言ったよね。
それは出棺専用の場所。
棺を乗せる台を指差して…。
「いない、いない」って言っていたね。
そう、キミの妹はこの世界から旅立ったんだ。
でも何も言えなかった。
だからその場所を、離れるしかなかった…。
でも何度も「あー、あー」って言ってたね。
でもそこには、いないんだ、キミの妹は…。
そしてまた疲れ果てたように、寝てたね。
僕らが帰るとき、声をかけてくれたのは妹。
ほとんど寝て無かったのに、寝れなかった…。
帰りの車では、少し寝れた…。
でもすぐに目が覚めた。
それを何度も繰り返した。
キミの最後を見送るとき…。
空は晴れていた。
でもなんだか切ない色に見えた。
午後8時過ぎに自宅に到着した。
なんだか、いつもより星空がキレイに見えた。
輝く星が、一個増えてる気がした。
空に向かって手を振ってみた…。
見えてるか見えてないか分からないけど…。
手を振ってみた…。
桜の咲く季節には…。
空を見て、手を振ってみよう…。
手を振ってみよう…。
サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。
また…、また…、また….
いつか…、いつか…、いつか…、
みんなで…。
テーブルを囲もう…。
大きなテーブルを…。
とっても大きなテーブルを…。
みんなで囲もう。